モリゾーとキッコロ
オフィスの中でふと、とあるうちわが目に入りました。
2005年に行われた愛・地球博のうちわです。
この万博ではいくつかのパビリオンに携わりました。
印象的だったのがそのうちの一つ、「瀬戸愛知県館」というところ。
本当は、瀬戸市にある里山で開催する予定だったのですが、
オオタカの生息地ということもあり、メイン会場は大きい運動場の方に移り、
瀬戸市にある「海上の森」の一部に瀬戸愛知県館ができました。
瀬戸愛知県館は、万博が終わっても残して使えるように建てられたもので、
自然館みたいなものです。
万博では、ここでシアターをやろうということになりました。
どんなものをやろうかと、色々考えましたが、一つは、
「虫の目になってみたらどういう風に見えるか」
「カマキリがどういう風に見えるか」等、虫の目カメラと音で行こうというアイディアでした。
博覧会は、メッセージが綺麗ごとで終わってしまうことが多かったので
「自然を大事にしよう」という感覚が子どもでも肌で分かるようなものにしたかったのです。
今回は、 『生きる』という言葉を合言葉にしました。
(企画を組み立てるとき、私は「結晶化されたひとこと」というものを
考えます。言葉は簡単ですが、散々考えた結果、本質的なシンプルなものになっていきます)
思って見れば、鳥とかは動いてる姿が見え易く、いかにも生きている感じですが
小さいものや止まっているものはなかなか感じづらい。
身近なものが生きていることを実感できる音の世界を目指しました。
例えば、自分の横にある草から音がしていたら、簡単には折れないでしょう。
そんな実感を持ってもらえるように、生きているということを「音」で表す。
それがテーマでした。
手法は色々と考えました。
足元をばあっと虫が走るとか、座ってるすぐ近くで音が聴こえるとか、いろんな空間に行けるとか特殊な立体音響システム等々…
中でも、木の音は面白かったです。
海上の森にある木の中の音を1年で300種類以上録りました。
実は、人間と同じで、時間によっても、季節によっても、木の中の音は違うんです。
木の中の音=水を吸いこむ音なのですが、それが本当に面白い。
この面白さに取りつかれ、今度は、「石は何を聴いてるんだろう?」
「アメンボは何を聴いているんだろう?」とどんどん没入し、
蝶のはばたきや、カブトムシがメロンを食べる音なども録りながら
頑張って生きてるということを表現したシアターを完成させました。
最初は地味であまりお客さんが来ませんでしたが、
最終的には2番目にいいと思われるパビリオンとなりました。
うちわを見ながら、そんなことを思い出しました。