不純
「何事も純粋な方がいい、という考え方があるように思いますが
今日はそうでもない、ということをお話したいと思います。」
純度が高すぎる素材は楽器には向かない。
「例えば、純度99.9%の銀は、純度が非常に高くいいモノのように思えます。
しかし、実際には柔らかすぎてしまい、楽器なんかには使えなかったりします。
楽器でよく使われているものは、もう少し純度の低い92.5%のスターリングシルバー。
でも、音色が深く人気があるのはビンテージだったりします。」
不純物を含んだフルートの音色が世界中で話題に。
「銀でできている楽器で代表的と言えば、フルート。
最近世界で話題になっているフルートがあるのですが、
これは純銀のフルートではなくて、なんと不純物を多く含むフルートなのです。
フルート職人がヨーロッパに行き、何百年も前の銀の食器を集め、
それらを溶かしてフルートを作ってみたらしいのです。
すると、なんと複雑で深い音がして、世界的に話題に、そして有名になってしまいました。」
純粋すぎる音楽は人のこころに入ってこれない。
「楽器だけではなく、音楽も同じです。
あまりにも純粋すぎたり、単調な感じだと全然人のこころの中に入ってこれない。
やはり、すこし不純な感じがいい塩梅で入っていることによって
心に入ってくるということがあります。」
不純物がどう入っているか?これがこれからの技術のポイントなのです。
「古い楽器もどんどん錆びてきたり、金属が変化してきたりしますが、
それが味になってビンテージサウンドになったりするんですよね。
新しい技術は、素材を純粋化する方向に進んでしまっていますが、
この先の未来は、”不純物がどれくらいはいっているか?”
“ノイズ、雑音がどうやってはいっているか?”がポイント。
そのものでないものがどれくらい入って味を出すか。
これが未来にかけて大事な技術になってきます。」
人も、不純物があった方が音色が深く、複雑で、沁みる。
「人もそうです。
純粋培養で生きるよりは、傷があったり、長年何かに耐えてきたり…
純粋だけでない部分があった方が、絶対味が出ます。
不純物があった方が音色が深くて、複雑で、人の心に沁みることになる。
人もそうなんじゃないかなと思います。」
自分が純粋じゃないことは悪いことじゃない。そう思ってもらえたら。
「どうしても、自分の暗いところ、汚れたことはダメだという見方をしてしまうことがあります。
何かと比べると、自分は汚れてるって思っちゃいますよね。
本当は、そういうことじゃいんだよ、と伝えたいです。
それがその人の人間性の味になってることがある。
純粋じゃないことが悪いわけじゃない。
自分の汚れのようなものに苦しんでいる人が、ふと、そう思えるといいなと思います。」