気負いのない音楽っていいなあ。

音のこばなし

ある日、井出さんが見せてくれた、少し古めの写真。
「すごい、これ何かのトロフィーですか?」そう聞くと、
「これね、グラミー賞なんだよね。昔面白いことがあってね、」
こう言って、とあるアメリカのスタジオで起きた出来事をお話してくれました。


これからグラミー賞の授賞式に行くんだけど、この服どう?

「場所は、テキサス州のオースティン(Ausitn)という街。
がん患者の方が治療中に聴いてリラックスできるような音楽を創るお仕事をしていた時のことです。
超有名アーティストと創ろうという話になっており、その編集をオースティンのスタジオで行っていました。

編集に励んでいる最中、スタジオに入って来たのはスタジオの持ち主。

入ってくるなり、気さくに話しかけてきました。
『今からグラミー賞の授賞式に行くんだけど、この服どう?』」

実はカントリーミュージックの超有名アーティストだった。

「皆で『すごいじゃん!』とお祝いの声で盛り上がると、
『じゃあ、もしよかったらちょっと来てみる?』と、社長室みたいな所に案内してもらいました。
そこにあったのが、写真のトロフィーです。

 あまりにも普通に置かれているので、『それ何ですか?』と何の気なしに聞いてみると、数あるトロフィーの中から一つを取りいきなり投げてきました!笑
『これがグラミー賞!』

実はこの人、カントリーミュージックの有名なアーティストで、 とんでもなくすごい人だったのです。 年に250日以上バスに乗りアメリカ国内を移動しまくっているとか。
数々の賞を受賞しており、グラミー賞はそのごく一部だったようです。 」

プレスリーが使ったミキサー

「そのスタジオは古き良き時代の機材を調整して使っているところで、
あのエルヴィス・プレスリーが使ったミキサーなんかもありました。
(なんと、刻印が入っているんです!)」

渇いたアメリカのフォークギターの音

「そんなサプライズ続きだったテキサス州オースティンのスタジオ。
ここで、私は『ああ、こういう音楽っていいなあ』と感じる音と出会いました。

それは、録音しようとしたその時、アーティストが鳴らした12弦のギターの音でした。

いい意味で乾燥した、アメリカのフォークギターの音。
実は、その音が、私としてはとても意外でした。

実はテキサスの南部は湿地帯でワニ等も出てしまうような地域。
土地としては渇いてる感じでもないのに、音はしっかりと渇いていたんですね。
しかも、弾いていたギターはYAMAHA製。
ギブソンやマーチン等のアメリカ製ではなく湿度の高い日本製だったのです。

気候や楽器の特性に影響されず、しっかり渇いたアメリカの音が出せる。
すごいことだなあと。
やっぱり、音は弾く人が決めるんだなあと感じました。」

元のままで行けちゃう、気負いのない音楽

「 日本だと何十分もかけながら一つ一つの音を創っていきますが、いいプレーヤーによりいい音が出せると、その後音をエンジニアが創ったり編集する作業はほとんどいりません。
この音はまさにそうで、元のまま、そのままで行けちゃう音でした。
元の音が違うんだ!と知ることができた面白い出来事でした。

では、何が違うんだろう?
おそらく、気負いがない、緊張もない。そういうところかなと思いました。

日本で言うレコーディングは、大きいスタジオに入り、そのために準備をして演奏するという感じがあります。
しかし、彼らの場合は年中ぐるぐるとツアーで回っていて、
その流れで「はい、弾いて!」と言って弾いたらそのものになってしまう。
そういう感じなのですね。

気負いがないこと、それが音楽っぽくていいなあと思いました。

トロフィーのくだりから始まり、テキサスでのスタジオはすごい割に気負いのない人ばかり。
たいへんいい勉強になりました。」

浦上咲恵

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Sound Writer / Sound Stylist。井出さんと一緒に仕事をしながら感じる、浴びる程の「ゾクゾク」感を届けたいと思い、日々執筆しています...

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