「才能」ってなんだ? -サウンドプロデューサーは人をどう観ているか-
「彼には才能がある」「私には才能がないから…」
ついつい不安になってそんな言葉を口走ってしまいますが、そもそも「才能」ってなんだ?
サウンドプロデューサーとして何百人ものアーティストを観てきた井出さんに、才能の実態を聞いてきました。
才能ってなんですか?
「まず、一般的に言う “才能” と、仕事上の “才能” には結構差があるんですよね。
一般的には、すごいことができたり、何かがすごく上手いとか、自然とできちゃってるとか。
そういうことを “才能” と言っているイメージがあります。
しかし、仕事上ではそういうことが通用しないことが多いです。
『じゃあ、 “才能”ってなんなんですか?』とよく聞かれるんですけど、こう答えています。
美意識と強い情熱。
40年以上プロデューサ-をやってきた上での結論です。」
“才能” とは、美意識と強い情熱
「それから由来して、いわゆる努力や忍耐が出てくる。
元にあるのは美意識と強い情熱だと思います。
“才能” の定義というわけではないかもしれないけど、私が人を観る時には、そこを観ています。
もう少しかみ砕いて言うと、
『何を綺麗だと思うか?』と、
『どれくらい大好きか?』ということだと思います。」
何を綺麗だと思うか?
「仕事を一緒にやる時や何かを創る時に一番見ているのは、普通の言葉で言うと”センス”ですね。
この”センス”というものは色々な解釈がありますが、実態は”美意識”なんじゃないかと思っています。
何を見ていて、それがどれくらい綺麗で、神がかったものなのか、もしくは一般的なモノなのか…そこをどう捉えているか。
その人が『すごく綺麗!』と感じることは、何に対してもそういう基準で見ているということなんです。仕事でも、服でも文房具でもなんでも。
私はそこを観ています。
何かに秀でていて、異常に上手だったとしても、美意識が低いとダサい。
“うまダサ”って呼んでるんですけど、そういうことになってしまいます。
この場合、才能があるとは言えないなあ、と感じます。」
“好き”は異常なパワーを持っている
「美意識よりももっと重要視しているのは、情熱とか、『とにかくこれが好きです!!』という部分。
そこには異常なパワーがあるんです。
むしろ、美意識よりも『好き』が勝つんじゃないかと思います。
なぜそう思うのかというと、大好きだと長くやっていられるから。
長くやっている間に、色々なことが体についてきたり、結晶化されてきたりします。
色々な発見があったり、新しく作っちゃったりもします。
積み重ねが長いほど、色々なことができるようになってきますし、可能性も広がります。
維持できるということが大きいからこそ、その源にある『好き』は才能だと感じます。」
アツすぎず寒すぎない温度感がある
「よく聞く話として、子役時代に天才と言われていても、大きくなるとそう言われなくなってしまう例があります。
生まれつき頭がいい人がいて、すごいと有名になっても、その人がそのことについてそれほど好きではなかったら、形だけになってしまいます。
『好き』のエネルギーはものすごく大きいです。
それが迸っている人が何かを巻き起こし、新しいものを作り上げる人になる。
かといって、無駄にアツくなるということもなく、
アツすぎず、寒すぎず、高めだけどいい温度感がある。
それを感じることで、好き度が分かります。」
『とてつもなく好きだ』が何より貴重
「一緒に仕事をする人でまず観ているのは、『どれくらい好きか?』というところ。
言葉にならないところをみています。
次に、『美意識はどういう感じか?』『何を綺麗だと思うか?』というところですね。
そして、『それだったら一緒にできるなあ』とか 『広く人に受け入れられる人だなあとか』を、それぞれに感じます。
生まれつき頭がいい人は沢山います。
でも、何かをとてつもなく好きだ!と思い続けることができる人は全体の何%いるでしょう?
何かをやる時に、 才能が無きゃだめで才能があればできるということでもないのです。
一般的に言う、できちゃう人や上手い人という意味での”才能”に依存する部分は3割くらい。美意識は2割くらい。
『とてつもなく好きだ』というところは5割以上だと思います。
そこがあれば、他は徐々にクリアしていける。
そういう風に思います。」